第82章 誰が為に鐘は鳴る
「班長ってなんでもできるんですね」
「そうか?言う程器用じゃないぞ?」
「器用ですよ。ワクチンだって血一滴から作れるなんて、私には到底真似できません」
ふるふると大きく首を横に振る南に、リーバーは照れ臭そうに額を親指で擦った。
そうも真っ直ぐに尊敬の目を向けられると、照れるというものだ。
「俺も少しは役に立ててるか?」
「?」
「弱くてもな」
「っそ、れは…ッ」
南を見るグレーの目が、僅かばかりに悪戯な色を放つ。
先程リーバーへと向けてしまった南の言葉は、彼の出来の良い頭脳にしっかりと記憶されてしまったらしい。
「もう、忘れて下さい…」
「はは、んな気にしてないから凹むな凹むな」
だらりと項垂れる南の頭を、軽い調子でリーバーの大きな手がくしゃりと撫でる。
(なんさ…なんかすげぇ疎外感…)
なんとなく自分の存在をスルーされているような。
むすりとラビは顔を顰めると、徐に南の脇に下から小さな顔を突っ込んだ。
「っそれよか!武器はそれが出来れば揃うだろ?作戦決行は1時間後さ。それまで体力回復させとかねーとッ」
「あ、そうだね」
堪らず行動を起こした小さな体が、二人の間に割り込んでくる。
にゅっと脇から顔を出して主張するラビに、思い出したように南も目を向けた。
「ラビはその体でイノセンス扱わなきゃいけないし。時間になったら起こすから、それまで寝てていいよ」
日頃から睡眠好きなラビをそう誘えば、御尤もだと言う表情を浮かべながらラビが起こしたのは、部屋にある入院用毛布に向かう行為ではなく。
「ん。」
「…ん?」
両腕でぎゅっと南の体に抱き付く行為。
「停電して暖房機器使えねぇから一人で寝ると寒いんさ。南の体温分けて」
「おい」
間髪入れず突っ込んだのは言わずもがなリーバーだった。
「何どさくさ紛れにセクハラしてんだ」
「セクハラじゃねーさ。こんなのいつものことだし」
「いつものこと?」
聞き捨てならないラビの抗議に、ぴくりとリーバーの眉が潜まる。
な、とラビに催促される南もまた、思い当たる節はあるのか頷いているから尚の事気に喰わない。