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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「わざわざ運んでもらって、すみませんでした」

「ああ、それくらい気にするな。それより具合はどうだ?」

「はい、大丈夫です」



気を失った南を医療病棟まで運ぶのは、体の小さなラビには無理なこと。
朦朧とした意識の中で感じた、誰かに運ばれる温かい感覚。
それは恐らくリーバーのものだったのだろう。

辺りを見渡せば、微かな蝋燭で灯された医療病室が見える。
扉にはゾンビが入って来ないように、箒や棚などで塞いであった。



「南が寝てる間に手当てもさせてもらったんだが…痛みの方はまだあるんだろ」

「…はい」



包帯を巻かれた首と脹脛。
しかしそこから感じる奇妙な違和感は消えていない。

あの時、意識を飛ばす直前に直感で気付いた己の体のこと。
それはどうやら現実のようだ。



「私の体は、ゾンビウイルスを保持し続けています。婦長さんの薬の効き目が切れたら…他の皆みたいに、理性を失ってしまうかもしれない」



項垂れ拳を握る。



「ラビもそうなってしまうかも…ごめん」

「別に謝る必要なんてねぇさ」



しかし落ち込む南に対し、ラビは平然としたものだった。



「南があそこでオレを助けてくれなかったら、ずっとゾンビのままだったし。今はまだ希望は持てるだろ」



両手を頭の後ろで組んで、にへらっと笑ってくる屈託ないラビの表情に南の肩が僅かに下がる。
ほっと力が抜ける感覚に、僅かばかり口元に笑みが浮かんだ。



「うん…でも、それなら早くクロウリーを捜さないと」

「そこが問題なんだよなぁ。クロちゃん見つけても、あの狂暴さにまたやられちまうかもしんねぇし…」

「要するにクロウリーが感染源で、ワクチンを作るにはその血が必要ってことだろ?」



頭を悩ませるラビに対し、リーバーの眉間には皺がない。



「なら倒す必要はない。血を採取できればいいだけの話だ」

「それが難しいから言ってるんさ、はんちょ」

「いくら相手が狂暴化したクロウリーでも、完全無傷なんて絶対はないだろ」

「そーだけどさぁ。でも掠り傷程度の傷負わせてもさぁ」

「それでいい」



へ?と首を傾げるラビに、リーバーは僅かに口角の端を上げた。



「血が一滴でもあれば、そこからワクチンは作れる」

「…マジかよ」

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