第82章 誰が為に鐘は鳴る
「───と、これが俺の記憶してる一連の出来事だ。一度感染にあって記憶が飛び飛びでな。曖昧で悪い」
「いえ…でもコムイ室長の為に体張ってゾンビの盾になるなんて…」
ざっとリーバーから聞いた話を頭の中でまとめる。
黒の教団で昔行われていた、イノセンス適性実験。
そこで犠牲になった怨み辛みを背負った魂達が少女の体と成し、リーバーの体に奇声してコムイを脅しただとか。
リーバーが最後に憶えていたのは、リナリーの体に乗り移った少女が残りの生存者であるコムイ達をゾンビ化させて一網打尽にしようとしていた姿だった。
その時、ゾンビに襲われるコムイをリーバーは体を張って守ったのだ。
なんという、
「立派な嫌がらせですね。ナイスです」
「流石南!お前ならわかってくれると思ってた…ッ」
ぐっと親指をおっ立てる南にリーバーが唇を噛み締め涙を流す。
決して上司を思っての行動ではない。
コムビタンDという、自分の犯した過ちを親身に感じながら後悔して欲しかったから。
つくづく、我らが上司は身勝手過ぎる。
「だがあいづは…室長は、わだじ達のこども全部背負ってくれでいた…わだじはもう、あいつを怨んでいない…」
そこに静かな介入をしてきたのは、リーバーの腹から覗いている少女の顔。
ぼこぼこの腫れ物だらけの口元を歪ませ、嘆く姿はコムイを思う。
コムイの、教団の負の遺産全てを抱える覚悟に、怨念である少女の亡霊は打ちのめされた。
だからこそゾンビに襲われ生存者が一人もいなくなってしまった際に、リーバーの体に逃げ込み行動を起こしたのだ。
亡霊である少女にウイルスは効かない。
しかし少女一人では何も行動を起こせない。
誰かの手を借りて、コムイを助けなければ。
「でもなんでリーバーはんちょだったんさ?そんなにコムイを助けたいなら、コムイに取り憑けばよかったんじゃ…」
「室長には取り憑けない…あの人の体に寄生しだくない…」
疑問を抱いたラビに、しゅんと少女の頭が項垂れる。
余程改心されたのだろう。
「じゃあ本当に、今教団で無事なのは…」
「俺と南とラビ。この三人だけだ」
「あと亡霊が一人な。とんだ面子さ」
亡霊に取り憑かれた男と、兎耳の生えた女と、幼児化してしまった少年。
なんとも奇妙な御一行である。