第82章 誰が為に鐘は鳴る
「それで…あの、なんで…?」
リーバーの心遣いを身に沁み入りさせながら、それ以上に感じていた疑問を問い掛ける。
何故リーバーはゾンビ化していないのか。
「ワクチン、作れたんですか?事件は解決した、とか?」
「いや。良い報告をしてやりたいところだが、現状は悪化の一途を辿っている」
「多分、今教団でまともなのはオレら三人だけさ」
「え…で、でもじゃあ、なんで班長は…」
「それが俺もよく理解していないんだが…一度ゾンビウイルスには侵された。それでも無事なのは……こいつのお陰だな」
「こいつ?」
話の途中でリーバーが目で辿ったのは、己の腹だった。
同じに辿った南の目に映ったもの。
ぐぷり、
薄気味悪い呼吸音。
今の今まで普通のベスト姿だった腹部には、人の顔があった。
「わだじが中でウイ」
「ひゃわぁあぁああ!」
皆まで聞く間もなく、南の悲鳴が木霊する。
やはりあの時見た謎の少女は現実だったのだ。
それも今正に具現化しているという。
これが叫ばずにいられるか。
「わわっ落ち着けって南!」
「んぐっ」
慌てて飛び付いたラビが小さな手で、咄嗟に南の口を塞ぐ。
「気持ちはわかるけど、大声出したらゾンビに気付かれるさ!」
「ラビもな。こら、だから驚かすなって言っただろ」
「驚かせでるづもりはない…普通に話し掛けただけだ…」
自身の腹部から顔を出している謎の少女と、普通に会話をしているリーバーの姿が異様に映る。
目を白黒させながら傍にいるラビに視線で訴えれば、頭の良い少年は南の心情を察して苦笑した。
「理解すんのは大変だと思うけど、これが現実なんさ。南。リーバーはんちょの体内のゾンビウイルスは、あの亡霊が抑え込んでるんだってさ」
「んんっ!?(亡霊っ!?)」
「ちゃんと説明するから、耳を貸せるか?南」
「っ…」
真剣な顔でリーバーに問い掛けられれば、従う他ない。
コクコクと頷く南に、やっとラビの手は解放された。
「落ち着いて聞いてくれ。大分突拍子もない話だが…イノセンスの怪奇現象と同じようなもんだな」
果たしてそれは如何様な。