第82章 誰が為に鐘は鳴る
「……ぇ?」
「別にイチャついてなんか…」
「めっさイチャついてんだろ。怪我人を抱き潰すなよ、はんちょ」
ぽかん。
と止まる南の目に映り込んだのは、気を失う前に見た時と同じラビの姿だった。
科学班の薬で子供の姿となったまま、一つ違うのは体のあちこちに見えるガーゼや包帯の手当ての跡。
「南、目ぇ覚めたんか。体はヘーキさ?」
「………ラビ?」
「? なんさ」
リーバーの体が離れゆくと同時に、歩み寄ってくるラビの姿をまじまじと見つめる。
確かにどこをどう見てもラビだ。
何故今まで気付かなかったのか、つんと鼻を掠めるのは強い消毒液の匂い。
見下ろせば、南の体もラビ同様あちこち白い手当ての跡が張り巡らされているではないか。
「これ…夢、じゃないの…?」
「夢?」
「何言ってるんだ、南。しっかりしろ」
唖然と呟く南の前で、リーバーがひらひらと手を振る。
夢だと思っていた。
現実とは違う、淡い空間だと思っていた。
思っていたから、起こしていた行動だったのに。
(わ、私何した…!?何言ったっけ…!?)
リーバーは弱いなどと、褒めて下さいなどと、随分と失礼なことを言ったり大胆な行動を取っていた気がする。
現実味を帯びると共に、急速に戻ってくるいつもの"科学班"である南。
「南?どしたんさ、顔白黒させて」
「ご、ごめんなさい班長…!」
なんて失礼なことをしてしまったのか。
照れは少し罪悪感が大半。
勢い余ってがばりと土下座並みの謝罪をする南に、リーバーは首を軽く傾げた。
「何か謝るようなこと、したか?」
「いえ、いや!班長がそう思わないならいいんです…!ごめんなさい!」
「だったらなんで謝ってんさ…」
「ぅぅ、さっきのことは忘れて下さい…全部…」
「あー……なんとなく言いたいことはわかった」
「!」
「え?なんさ、スゲー気になるんだけど」
「まぁ、色々と。な」
興味を示すラビに軽く苦笑を返して、曖昧にはぐらかす。
リーバーなりの南への気遣いなのだろう。
がばりと南が縋る目で顔を上げれば、リーバーは言葉無く笑みだけを向けた。