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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「南は俺の自慢の部下だよ」

「…もっと、」

「いつも頼りにしてる」

「もっと…ずっと、」

「そうだな…後は───」

「此処にいて、下さい」



褒め讃えようとしていたリーバーの口が止まる。
腕の中を見下ろそうとすれば、それよりも先に南の抱擁が強まった。



「もう、何処にも行かないで下さい。班長は…強くないんだから」



AKUMAを前に啖呵を切って、抗うことができる。
幾人もの仲間の死を見送りながらも、前を向こうとする。
そんなリーバーは自分より遥かに強い人間だ。

しかし同時に、彼の弱さも知っているからこそ。
この淡い空間の中だけは、素直な心を吐き出せた。



「無茶し過ぎちゃ、駄目です」



背中に回した腕に力を込めて、めいいっぱい顔を胸に押し付ける。
染み込んだインクの匂いと、洋紙の乾いた匂い。
それから、馴染んだコーヒーの香り。
以前にリーバーに抱きしめられた時と同じ匂いが南の鼻を掠める。



「あー……南?」



真っ暗な視界の中、頭上から落ちてくるのは少し戸惑いを感じさせるようなリーバーの声。



「そんなにくっ付かれると、俺も一応…男、なんだが」

「…知ってます」

「ならそろそろ放して欲しいと言うか……これでも我慢してるんだぞ」



ぼそりと最後に付け加えられた言葉は、いつもより多少低い男性的な声。
内心ドキリとしながら、それでも南はリーバーの白衣を放さなかった。



「だって、放したら消えちゃう」



淡い光の灯った空間。
それが現実離れしていることは、なんとなくわかっていた。
リーバーはゾンビになってしまったのだ。
南も、ゾンビウイルスを抑えられずに意識を失ってしまった。
次に目覚めた時は、もう自我を失っているかもしれない。
もう少しだけでいいから、この確かな温かさを感じていたい。



(もう少しだけ)



その一心で、南はリーバーの体を放すまいと顔を押し付けた。










「…あんさ。人が見張りしてる間にイチャつくのやめてくんね?」










響いたのは、心底呆れた子供の声。

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