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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「………」

「…南?」

「……ぅ」

「───!?」



強く腕を掴んだまま、黙り込んでしまった南。
俯く彼女になにかあったのかとリーバーが顔を寄せれば、耳に届いたのは微かな泣き声のようなもの。
ふるふると震える頭部に、リーバーの目が驚き見開く。



「ど、どうした?」

「…んで、」

「?」

「なんで、ゾンビになっちゃったんですか…っ」

「え?」

「逃げるって…っ絶対ですよって、言ったのに…ッ」



リーバーを責めてもどうにもならないことは、わかっていた。
それでもウイルスに感染された彼を見つけた時の衝撃は計り知れなくて、行き場のない思いが南の中に浮ぶ。



「班長、失うなんて…っ私…っ」

「…南…」

「起きたら、一人、で…っ怖かったんですよ…っ」

「…ああ」

「でも、どうにかしないとってっワクチン、作れなかったけど、どうにか抗生剤の代わりを、見つけてっ」

「ああ」

「ジョニーは、助け、られなかったけど…っラビ、と一緒に…っ」

「ああ。知ってる」



リーバーの腕を掴んでいた南の手に、重なる大きな掌。
腕から手を引き離されたかと思うと、代わりに囲うように南の体を大きな腕が包み込んだ。
涙を堪える南をあやすように抱きしめる、リーバーの体。



「全部知ってる。よく頑張ったな。一人で、よく頑張った」

「っ…」



ぽん、と背中を一撫でされて、労うように言葉を被せられて。
堪えていた南の口元が戦慄いた。
それでも膨らんだ感情を爆発させまいと、目の前の胸に顔を押し付ける。
甘えにも似た南の仕草に驚きながら、それでもリーバーは腕を解くことはしなかった。



「悪かった。お前に泣かれるとどうしていいか…情けないな」

「っ…じゃあ…もっと、褒めて、下さい…」



顔を押し付けて辿々しくも発したのは、普段の南から到底向けられたことのない言葉だった。
上司と部下であるが故に南の甘えた我儘など、ついぞ見たことがない。
珍しくも愛らしく見えるその姿に、リーバーの口元に微かな笑みが浮かぶ。

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