第6章 アドミッション
いつだったか。
私がまだ早乙女学園に入学するずっと前。本当にずっと前。
私には親友・・・じゃないな、相棒?・・・うーん、それも違うな。・・・そう、〝パートナー〟が居た。
そいつが私の唄を、好きって言ってくれた。
それが私の夢のきっかけ。
でも、そいつは・・・本当は凄く辛かったはずのにヘラヘラ笑って。
なんともない風に嘘の〝表情(かお)〟を貼り付けて。
大丈夫?って聞けば「大丈夫」って言って。
「平気だよ」「なんともないよ」って言って。
決まって最後は〝笑顔〟を取り繕って。
そんなの、ダメだ。
『一ノ瀬くんさ、それやめな』
「、だから・・・僕はHAYATOだよ?」
『自分の中に別の自分を作って・・・その別の自分を演じてさ。疲れるでしょ、それ』
「・・・・・・演じてなんか・・・」
『前に言ったよね、HAYATOの歌はHAYATOが歌うから意味があるんだよって。HAYATOの歌を一ノ瀬くんが歌っても意味が無いんだよ。
・・・何回でも言うよ?
HAYATOは、HAYATO。一ノ瀬くんは、一ノ瀬くん。
声が同じなら誰が歌っても同じなんて、そんなの絶対ダメだよ』
「・・・・・・・・・」
『何があったのか知らないけどさ。
歌いたいなら歌えばいいじゃん。辛いなら辛い、でいいじゃん。
・・・HAYATOのままで・・・一ノ瀬くん、思いきり歌えてるって言い切れるの?』
「・・・、っ・・・・・・!」
目を大きく見開いて、私を見る。
それは、〝HAYATO〟なのか〝一ノ瀬トキヤ〟なのか。
『・・・・・・日向先生が言ってたよ。
一ノ瀬くんの歌、ハートが篭ってなかったのに最近はいい歌歌うようになったって。・・・その原因、もしかしてHAYATOじゃないの?』
「っ・・・ち、が・・・・・・」
『一ノ瀬くん』
「、・・・?」
『本当のハートが篭った・・・誰も演じてない一ノ瀬くんの歌、聞かせてよ。
HAYATOって言うのを抜きにしてさ』
「・・・・・・・・・っ・・・・・・、め・・・・・・す・・・」
『・・・?』
「・・・・・・ダメ、なんです・・・。
わ、たしは・・・・・・っ」
声が震えてる。
大丈夫、君なら大丈夫たよ。