第52章 ハート
「嘘だ……。」
一時の沈黙のあと、零れ落ちたベポの呟き。
同意するように、シャチが続ける。
「そ、そうだ……嘘に決まってる。コハクが、お前みたいな雑魚にやられるはずねぇ……ッ」
だけど、雑魚と称した副官に歯が立たないのは、自分たちの方。
「滑稽だな、ただの子供もひとりに。」
「ただの子供じゃねぇ! コハクは俺たちの仲間だ!!」
それなのに、仲間の危機に気づけず、こうして敗れ去る自分たちの無力さが憎い。
「安心しろ、すぐにあとを追わせてやる。今頃、セイレーンは元帥に捕獲されているだろう。お前たちに、もはや用はない。」
「なんだって……!?」
先ほど、電伝虫から聞こえた僅かな声。
モモのものに聞こえたが、まさか、本当に?
ローの安否もわからず、コハクが死に、モモまで捕らわれたとなれば、戦う意味すら見つけられない。
「ハートの海賊団、貴様らはここまでだ。」
鈍く光る刀身が、倒れ伏したペンギンの首目がけて振り下ろされる。
「やめろ……!」
「ペンギン!!」
避けることもできず、助けることもできず、無慈悲な切っ先がペンギンの命を奪う。
そう、思われた。
ガキィン……ッ
弾かれた剣。
颯爽と現れた人影。
誰もが想像していなかった展開に、驚き、そして唖然とした。
「せん、ちょう……?」
精悍な身体、少し癖のある髪、凶悪な目つきをしたその人を、自分たちは知っていた。
「キャプテン……、キャプテン……!!」
一生ついていくと決めた、我らの主。
信じていた。
きっと無事でいると。
「バカな……ッ!」
誰よりも表情を驚愕に染めたのは、ローの最期を確信していた副官。
「なぜ、ここにいる。貴様は死したはずだろう! トラファルガー・ロー!!」
基地も大地も島すら溶かすマグマの中で、ただの海賊が生き残れるはずがない。
けれど、その海賊……トラファルガー・ローは確かに目の前に立っていて、鋭い刃を副官に向けていた。