第52章 ハート
「……待たせたな。」
決着はまだついていないというのに、余裕たっぷりな元帥副官は、サカズキと通信を終えたばかりの電伝虫を懐にしまう。
「さて、尋問の時間だ。」
抜き身の剣を手に口もとを歪める海兵と、致命傷を負い地面に倒れ伏す海賊たち。
普通なら、これから起こりうる出来事に恐怖を覚えてもおかしくないシチュエーションだが、今のペンギンたちには恐怖を覚えるヒマすらなかった。
「おい、てめェ……ッ、今……なんつった……!!」
口から血が混じる唾を飛ばしながら噛みつくシャチに、副官が言葉を繰り返す。
「尋問、と言った。貴様らには聞きたいことが山ほどある。」
「バカ野郎ッ、そんなこと聞いてんじゃねぇんだよ!!」
「……なに?」
尋問だろうが、拷問だろうが、そんなことはどうでもいい。
大量の血を流しながらも、3人が知りたいことはただひとつだけ。
「てめェ、コハクを……コハクをどうしやがった!」
副官は言った。
恐らくこの島にいるであろうサカズキに、些細な報告のように告げた言葉。
『トラファルガー・ローの子供を名乗る男児を発見しましたが、危険分子と判断したため、やむを得ず始末しました。』
嘘だと思いたい。
だが、ここで副官が嘘を吐く理由はないし、なによりその情報はハートの海賊団でしか知り得ない絆。
「コハク! 許さないぞ……お前、コハクになにしたんだよ!!」
致命傷を負っているにもかかわらず、3人とも無傷の時より殺気立つ。
「……驚いたな。まさか、本当にローの息子なのか?」
ペンギンたちの様子を見て、ようやく副官もコハクの正体が本物であったことを知る。
だが、彼の歪んだ笑みは消えることはなかった。
「礼を言うぞ。心のどこかで、無関係な子供を殺めてしまったのではないかと罪悪感を覚えていたが、ローの息子とあれば大義も立つ。俺は、正しいことをした。」
「な……にを……。」
今度は、はっきりと言った。
“始末”ではなく“殺した”と。
濁しようもない表現。
ただの言葉がこれほどの威力を持つこと、今の今まで知らなかった。