第52章 ハート
サカズキから情報を聞き出している間にも、モモの歌はどんどん開花し、破滅への道を開き続ける。
「ぐ……ッ」
「がァ……ッ」
モモからずいぶん離れたところに立っているのに、ローの心臓は限界だった。
ローよりもモモの近くにいるサカズキも、鼓膜を破ったことにより歌の効果が弱まってはいるが、口の端から泡立つ血潮が限界を語っている。
このままここに留まれば、今度こそ冥界への扉が開いてしまう。
死を選んでも、ここに留まるか。
それとも、彼女がサカズキを倒すと信じ、仲間たちのところへ駆けつけるか。
天秤にかけるまでもない、二者択一。
そう、考えるまでもない選択だ。
「モモ、今……助けてやる。」
ローが選んだ道は、愛する彼女の傍にいること。
そこに死が待っていようが、死神が現れようが、そんなことはどうでもいい。
ただ彼女を、二度とひとりにしないと誓っただけ。
絶望の淵に立たされたモモを救うのは、自分でなくては許せないだけ。
「うぐ……ッ。おどれ……、正気か?」
サカズキとしては、ローをこの場から遠ざけたかったに違いない。
防ぎようもない歌に苦しむのはサカズキも同じで、隙だらけの元帥を仕留めるには、絶好のチャンス。
「つまり、仲間を見殺しにする……そういうことけ。」
「違う。」
聴覚が機能していないサカズキになにを言っても無駄だろうが、これだけはハッキリさせておきたい。
「俺の仲間は……息子は、てめェらが思うほど弱くねェ!」
どんなピンチでも、己の力で切り抜けられる機転と実力を持っている。
そうでなくては、ハートの旗は背負えない。
「ウチの連中を、あまりバカにすんじゃねェ!!」
信じてるから、行かない。
必ず生きて、ローのもとへ戻ってくる。
だからこそ、ロー自身も絶対に生き抜くと決めていた。
モモと一緒に。