第48章 欠けた力
「出られる方法がありゃァいいんだな。」
モモの言葉に反論するように、キッドは投げ渡した羊皮紙を指差す。
「それは、お前をトラファルガーのもとへ連れて行くよう命令した指示書だ。」
「え…ッ?」
驚いて手に持った羊皮紙に視線を落とす。
「森を越えて俺の海賊船に持って行け。船と航海士も貸してやる。」
キッドは母船である海賊船とは別に、いくつか船を所有している。
それを一隻、モモに貸すというのか。
ローに出会うまで、どれほど時間が掛かるかわからないのに。
「どうして…。」
親切…というわけではないだろう。
でも他に、彼がそうする理由が見つからなかった。
「まったく役には立たなかったが、キラーを診た報酬だ。借りを作るのはごめんだからな。」
「報酬って…。」
キッドの言うとおり、モモはなにも役に立っていない。
これは謙遜なんかでなく、まぎれもない事実。
それなのに、大事な船とクルーを借りることなどできるわけもない。
「気持ちはありがたいけど、わたしにはまだ、やることがあるから。」
受け取ってしまった羊皮紙をキッドへ返そうとしたら、フンと鼻で笑われた。
「やることだと? いったいお前になにができる。病を治せないと言ったのは、お前だろうが。」
「それでも、わたしは…。」
「だがお前は、まさに今、逃げ出したじゃねぇか。」
「──ッ!」
唇が戦慄いた。
やっぱり見られていたんだ。
二の句が継げずに立ち尽くす。
「別に責めちゃいねぇよ。いいんじゃねぇか、それで。村の連中もキラーも、お前にとって無関係なんだから、これ以上深入りすることはねぇ。」
無関係。
厳しい言葉じゃないのに、今までキッドに言われた中で1番傷ついた。
「だが、弱い女はいらねぇ。さっさとこの島から出て行け。」
もう用はない…とばかりに立ち去ろうとする彼の背中を、モモはとっさに掴んだ。
「待って…! キラーは、どうするの!?」
「離せ、それもお前にゃ関係ない。」
「でも、放っておいたらキラーの命は…ッ」
このままにしたら、死んでしまう。
「そうだな。だがそれは、お前がいてもいなくても、変わらない。」
だからモモがいる必要はない。
それがわかっていても、キッドから手を離すことができなかった。