• テキストサイズ

セイレーンの歌【ONE PIECE】

第48章 欠けた力




「…わたしだけ島を出られない。仲間じゃなくても、キラーは他人じゃないもの!」

彼とまともに言葉を交わしたことなんてない。

だけど、同じ家で生活をして、一時だけでもモモの患者だった。

関係は、確かにないかもしれない。
傍にいても、なにもできない。

でもだからって、「じゃあ、さようなら」なんて言えるわけがない。

服を離そうとしないモモを、キッドが鬱陶しそうに見る。

「じゃあ、お前、キラーの腹を切れんのか。」

ため息と一緒に吐き出された言葉に、モモの表情が強張った。

「それは……。」

キラーを助けるには、開腹して寄生虫を除去するしかない。

だけど、モモはあくまで薬剤師。

「…わたしには、できないわ。」

メスで自分の喉を裂くことはできても、患者を救うことはできない。

予想通りの答えだったのだろう。
キッドは「そうか」と期待のこもらない口調で言った。

しかし、次の言葉にモモは驚愕する。


「俺は、やるぞ。」

しばらく、なんのことかわからなかった。

ゆっくりと瞬くモモに、キッドはさらに続けた。

「キラーの腹は、俺が切る。」

ようやく、彼がとんでもないことを言っていることに気がつく。

キラーの腹を切る。
つまり、キッドは自分がオペをするのだと宣言したのだ。

「なッ、なにを言い出すの! 無理に決まっているじゃない!」

「そうか? やってみなけりゃ、わからん。」

「わかるわよ!」

彼にはオペの難しさが理解できないのだろうか。
患者はぬいぐるみとは違う。
血の通った人間なのに。

「闘いで斬るのとは違うのよ。傷つけちゃいけない血管もたくさんあるし、数ミリの誤差が致命的なミスになるの!」

だからこそ、医者になるには多くの知識と経験が必要なのだ。

素人が“なんとなく”できる技術じゃない。

「だが、なにもしなけりゃキラーは死ぬ。そうだろう?」

「それは……ッ」

確かに、キラーはこのままでは死んでしまう。

けれど、キッドの選択は明らかに無謀で、賛成できるものではなかった。



/ 1817ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp