第2章 世界
仁王側
悪夢を見ておるせいか、さっきから寝言の連発
殆どは聞こえんがな
『...こ..して...』
仁「?」
時々聞こえてくる単語が変わった
さっきから「早く、早く」と急かすような感じじゃった
『..こ..して、は、や..』
柳生「何を言っているのでしょうか?」
仁「さあな」
風が一瞬だけ強く吹く
そして、その後に訪れた静寂の中で
それはハッキリと柳生にも聞こえておったらしい
『早く、殺して...』
柳生「!」
仁「氷月!」
『!』
俺の声に驚いて体を起こす
まだ寝ぼけているようで辺りをキョロキョロを見渡した後
俺達に顔を向けた
『......』
俺は起き上がっている氷月を睨んでしまう
仁「大丈夫か!?」
『ああ、うん』
何が何だかわからん表情をして俺を見つめる
それでも返事が返ってきた事が嬉しく安心した
仁「そうか」
何が起こったのかわからない表情のまま
氷月は辺りを見渡した
『あ、比呂士』
柳生「おはようございます。氷月さん」
しまった、柳生を何処かに隠そうと思っておったんじゃが
『雅治』
仁「ん?」
氷月は無表情よりも真剣な表情になり俺に近づいてくる
少しだけ濁ったようなダークブルーの瞳に俺が写っておる
氷月は俺の目を見続ける
『クス』
目の前で急に微笑みだし、俺から離れて行く
『雅治、比呂士に話しちゃったんだね』
仁「なっ...」
柳生「氷月さん、私が無理やり聞き出したのです。仁王君は何も悪くありません」
『知ってるよ』
柳生「!」
『雅治は優しいから比呂士に話しちゃったんだよね?ごめんね、仲間に隠し事なんて苦しい思いをさせて。ごめんね、雅治』
仁「氷月、やめてくれ」
自分でも驚くような低い声、そして優しく抱いていた
高校に上がった時の抱き心地は本当に良かった
撫でやすい頭、綺麗な微笑み、優しい言葉
それらが俺の体の芯まで染み込んだ
雪が降っている中、朝練に行き
教室にを覗いた時に居なかった俺を潰すような不安感
授業をサボってまで探しに行き、真っ白な道の上に倒れていた
その体はとてもとても冷たかった