第2章 今宵月が見えずとも
気づいた時にはもう、走り出していた。路地の奥にたどり着くと、果たして声の主は彼女だった。見知らぬ中年の男に殴られている。咄嗟に空き缶を蹴り男の注意を逸らすと、一気に距離を詰め振り上げていた腕を取り捻り上げる。そのまま地面に男を押し付け少しだけ体重をかける。男の身体から自由を奪うと彼女に声をかけた。
「大丈夫ですかなつめさん」
「……辰也、くん…?」
彼女は地面に座り込み呆然とした表情でオレを見ていた。まるで信じられないものを見るような目でオレを見ながら、呟くように言った。
「どう……して、ここに……?」
「たまたま向かいの本屋に寄ったんです。そうしたら貴女の声が聞こえて……。気がついて良かった」
オレを振りほどこうと暴れる男にもう少し体重をかけてやる。すると腕に激痛が走り、男はうぎゃあと間抜けな悲鳴をあげた。