第1章 じっくり
「六時だぞ」
「もうそんな時間か?……じゃあまた明日な」
「おう、邪魔したぜ」
エルはそそくさと鞄をとって軽く会釈をして部屋を出て行った。
何だか、今まで静かだったこの部屋が一瞬で静かになったような気がする。
そんなに騒いでたってわけじゃないけど。
そう思えてしまう、自分がいた。
下から小さな足音が聞こえる。
姉さんが帰ってきた。
「たっだいまー!」
ドアを勢いよく開けてずかずかと部屋に入ってきた。
「姉さん、部屋に入るときはノックしてって…」
「今日、エル君来たんでしょ?いーなぁ、お姉さんも会いたかった!あぁ、今度遊びに来てって言ってよ。休日久々に開いてるんだぁ」
「…姉さん」
早々に早口で思ったことを言った姉さんとは逆に静かに冷静に姉さんを呼んだ。
しかし、まだ興奮は収まらないようだった。
「ねえ、いいでしょう?あの子貴方と同じ帰宅部で何も無いはずでしょ?ね、いいわよね?」
「姉さん」
「ああもうわかったわよ、今度からはちゃんとノックしてから入るから」
「ドアも勢いよく開けない」
「それは難しいわ」
「難しくない、それが難しいのはおかしい。気を付ければいいでしょ」
姉さんは横に広げていた手を下して少ししょんぼりした。
すこし言い過ぎた…?
「もー……そうやってロイはいっつも照れ屋さんなんだから~!!」
「…は?」
今のは理解できない、俺が照れ屋?何を勘違いしてるんだ?
「冗談よ、冗談!じゃあエル君に言っておいてね」
そう言うと今度は恐る恐る静かにドアを閉めて出て行った。
何が起きたのかあまり理解できてない俺はとりあえずエルに電話することを決めた。