第8章 ちくちく
「ロイって最近笑うようになったわよねぇ」
ふふっと笑いながら姉さんが言った。
「良い事でもあったのかしら?」
明らかにわざと聞こえるように言ってるように感じられた。
意地悪そうに笑いながらも嬉しそうだった。
「…別に?」
「えぇ~、隠すことはないじゃないの!」
姉さんが俺の方に両手をおいて軽く揺さぶった。
何を期待してるんだ、姉さんは。
「エルが…なんていうか、あぁ…いや、なんでもない」
姉さんにはまだ打ち明けていないから、どう伝えればいいのかがわからなかった。
そんなに軽く話していいような内容ではなかったし、別に姉さんを信頼していないわけじゃないけどやめておいた。
姉さんは不思議そうな顔をして俺を見た。
「まあ、いいわ。でもロイが笑ってくれるのは私が嬉しいことだしね」
両手を俺の肩から放してくるっと後ろを向いてそう言った。
やっぱり少しは気になっているんだろうな、とは思った。でもその時の俺には中々言い出せなかった。
「良い事があった事には変わりないんでしょう?話しにくいことならそれでいいわ、無理しないでいいのよ」
少しませた表情で姉さんは微笑んだ。
何故だかはよくわからないけど、その時姉さんが一瞬偉大な人物に見えた。