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ぼっそり

第3章 じわじわ


エルは晴れない顔をして家に帰っていった。
それほどあの切り傷に何か大きな理由でもあるのだろうか。
いや、もしかしたら俺が見たときにあまりにも疑わしく見るんで気味悪がったのかもしれない。
わからないが、俺がなにかしたのかもしれない。
明日会ったら謝っておこう。

そうやって悩んでいるとイブキ姉さんが「そんな固い顔してちゃ、いつか鉄仮面になっちゃうわよ?」と子供じみた事を言った。
元々鉄仮面だと思うが…そこは黙っておくことにしておいた。

姉さんにもエルの指の傷について相談したかったが、忙しいだろうしそんなに大事でも無いのでやめておいた。
それに、それが原因でエルがしょぼくれてしまったら全部の責任が俺にかかる。それはご免だ。

別に、責任を負うことは仕方がないことなのだが、全てを俺のせいにされては困るだけだ。
教えてくれなかったエルも一理は悪いと思う。
でもまだそう決まったわけではない、落ち着け俺。

小さな溜息をはいて、部屋に戻った。
部屋の隅に置いておいた鞄が不思議と隅に縮こまっているエルに見えた。ついている持ち手がキリだ。
そう考えるのもまあまあ楽しいが、俺の頭ではそこまでしか想像力が働かなかった。

それをずっと考えていると嫌になってきたので手で顔を抑えた。安心する、気がした。しかし、ちっともしない。
思考が停止するだけだった。
こればかり考えていても頭が混乱するだけで何も解決しないだろう、そう思って俺はいつもより早くに眠った。

部屋を暗くしても中々寝付けないのがいやらしかった。
夏のようにやけに暑くもないし、冬のようにやけに寒い訳でもなかった。ただ、悩みが一つあるだけでこんなにも寝付けないものなのか、と初めて知った。
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