第12章 決意と覚悟
仁王側
あの夏の事で俺達は近づいた
じゃが、その夏を俺は今まで忘れてしまっておった
しまいには、姿すらも忘れて負った
それに俺は情けないと思った
『何を考えているのですか?』
上目遣いで聞いてきよった
仁「なんでもなか」
『そうですか?』
仁「まあ、お前さんお敬語がどうにかならんかと思ってな」
『うーん』
考え込んでいるようじゃ
『無理、ですね』
仁「敬語は柳生だけで十分じゃ」
『なおさらやりたくなりました』
悪戯な笑みを振ってきた
仁「そこら辺は可愛くないのう」
『そうですか』
仁「わざとじゃろ」
『クス』
俺も少しだけ悪戯がしたくなってきたのう
氷月の髪が月光に当たっていたあの美しさが見たくなった
ゴムで1つに結ばれ......て、おらん
紐で結んどるのか
仁「いつも結んどるゴムはどうしたんじゃ?」
『ああ、3日前に切れた。今は仕事場に置いてあった紐で結んでいるよ』
綺麗にリボン結びにされた黒の紐を見た
仁「のう、やりたい事があるんじゃが」
『なんですか?』
俺は腰に回して居った手を紐の先端を掴んで
紐を解いた
『!』
氷月が驚いて俺から離れて行った
じゃが
仁「.....!!」
綺麗じゃ
腰まである髪の全てが月光に反射して眩しさを感じた
しかも、普段髪なんてほどいておらんからそれが新鮮にも見えた
仁「まるで、神様じゃな」
ボソッとだが言ってしまった
『......』
氷月が怒っておる
『まあ、神様だよ。無能なね』
仁「そんな事はなか。現に俺達は皆生きてここにおるじゃろ?それが証拠じゃ」
『......』
怒っておった表情が曇って泣きそうになっておる
仁「悪かったのう」
そんな泣きそうな小さな神様を優しく包んだ
あの時とは違って氷月も暖かい
仁「泣いてもいいんじゃ。ここならいつでも貸してやるき」
『ありがとう、ございます』
氷月は声を殺して泣いた
今まで好きな人がこの世から消えておる
自分が不甲斐ないと
悲しみと苦しさが
こんな小さな神様を苦しめておったんじゃな
俺は綺麗すぎるストレートな髪を撫でた
氷月は俺のシャツを強く掴んで泣いた
泣き疲れた氷月は俺の腕の中で寝ておった