第2章 “エース”を連れ戻せ
ボンと心臓が撥ねた。それが合図かの様に心臓は煩く鼓動を打ち始める。
「今日の昼休み、東峰さんを帰って来るように説得しに行った。そんで、話し終わった後、東峰さんが菅原さんと瀬戸に謝ってたって伝えてくれって頼まれた」
「!」
「どういうことなんだ?東峰さんは言えば分かってくれると思うからって言ってたけど」
影山さんは不可解そうに眉根を寄せる。予想外の事態に瞳があたふたとし、スガ先輩を見る。言って良いのか?言って良いのか?てか言って良いですか?目の前の御仁が般若のごとき形相でこっち見てるんです。蛇に睨まれた蛙どころか鬼に睨まれた生贄なんです。乾ききった口を開き、覚悟を決めて話を紡いだ。
「────と、掻い摘んで話させてもらいましたが、こういうことが、あって…」
「……」
話を聞いている時と同様眉一つ動かさない。影山さんは静かに瞬きをするだけだ。何故だか私は、ふと言葉を零した。
「ダメですね、私。でしゃばって、東峰先輩に嫌な思いをさせてしまったかもしれない。東峰先輩の気持ちを分かるなんて言ったり、終いには頭を下げたり…ただの自己満足にしかなってない……」
スガ先輩は私のした事に感謝してくれた。でも、東峰先輩からしたらどうだろうか。私のした事は不愉快な物でしかなかったとしたら、東峰先輩は帰って来てくれるのだろうか。それが脳裏を幾度も過ぎっていた。不安は拭っても拭っても沸いて出た。
自己嫌悪に陥りそうになったところで、床に写る影山さんの影が揺らめいた事に気付き、卑屈な発言をしてしまった事を謝罪しようと口を開く。やべぇ何で愚痴っちゃったんだよ。
「あ、す、すみません!こんな事聞かせてしまって、ホントにごめんなさ、」
「別に、俺はそう思わないぞ」
「え、えっ?」
予想外の言葉が耳を打った。目の前の彼は後頭部を掻き、不機嫌そうな表情を貼り付けている。しかし、青みがかった瞳はキョロキョロと所在が無さそうに動いていた。