第7章 おかしな烏野高校排球部
「んー?何でそんな怒るんだよ。俺は只、飛雄くんに伊鶴の弁当渡すように頼んだ“だけ”。俺は一言も『帰る』なんて言ってないよ」
「!」
“だけ”を嫌味な程強調し、余裕と自信に満ちた声音が耳の中を滑る。歯軋りをし、目の前の奴を睨み付ける。
「体育館の扉のやつは単純な話な。扉の方まで行ったらスリッパ脱いでこっそり用具室の前に待機。その後は他の子に体育館の扉開けてもらうだーけ。こんな簡単な引っかけに掛かっちゃうんじゃ、お前もまだまだだな」
あからさまな挑発に糸も容易く苛立ってしまう。軽く舌打ちを零し、横に視線を流す。怒りにより腸が沸々と煮え立つ。腹の中に何か居るんじゃないかとすら思えてくる。目の前のコイツはどうもねーと言って縁下先輩に手を振っている。恐らく協力者だったのは彼だろう。
そういえば、兄さんはすでに皆の名前は覚えてしまっているらしい。昔から人の顔と名前を覚える事が器用だった事を何気無く思い出す。世渡り上手な事が特技だと冗談めかして言っていたが、本当に特技ではないのだろうか。
「飛雄くん、伊鶴に弁当渡してあげて」
「はい」
影山さんは返事を返すと、小走りで私の隣へやってくる。
「瀬戸、はい」
「すみません、ありがとうございます」
薄桃色の包みを纏った弁当を受け取る。あー何か申し訳ない。
「これで一件落着かい?」
にこやかに答えを求めない問い掛けをする鴨一兄さんに、私は遠慮なく返答する。
「そんなわけないでしょ。脳みそ発泡スチロールで出来てるの?」