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古きパートナー

第18章 殺伐の春


『行った、か...』

静かな氷月の呟きは俺の耳にハッキリと聞こえた

俺を魅了する体が離れていく

『もう大丈夫です。ごめんなさい、急に走ったり、息を止めて貰って』

仁「いや、大丈夫じゃ」

『足が震えているのにですか?』

少しだけ微笑む彼女の表情を見るのは何回目なんだろうか

体の奥底から安心する

『やはり登下校は危険です。僕が1人で帰ります』

仁「嫌じゃな。足手纏いであっても俺はお前さんの護衛をする」

『...そんな軟な心臓では、すぐに止まりますよ』

仁「!」

真剣な眼差しで俺の目を見てハッキリと伝えられた事実に

俺は何も言い返せないし、受け入れてしまった

『...先に発言を撤回させてください。この状況で平然としてるほうが異常者ですので』

一瞬で切り替わる氷月の眼付き

本当にコイツは自分を熟知しておる

自分の得意な事も苦手な事も何もかも隠せるのは

自分の弱さを受け入れ、自分をそれなりに理解する事じゃ

俺のやっておる事は、他人の外面の格好をマネただけじゃ

参謀が俺にイリュージョンが出来んと言ったのはこれの事じゃろうな

俺はコイツを理解しておらん、理解しておるフリをしておるだけじゃ

コイツを知りたい、心の底から思った事じゃ

『動けますか?』

仁「まあ、な」

震える足に鞭を打って平然を装いマンションの中に入る

春の暖かさなんてなかった

あったのは

何処かの国で戦争しておる、冷たさじゃった

夕飯を食わずシャワーを浴びた

仁「そう言えば...」

アイツは自分で傷の手当てをするじゃろうか?

冬の一件で俺達は互いのスペアキーを預けておる

俺にとって戦場を歩いた冷たい体を温めてから

隣の部屋に無断で入る

シャワーの流れる音が聞こえるから氷月は風呂で髪でも洗っておるのじゃろうな






白川側

ピチャンと音を立てて天井から湯の張っている風呂桶に音を立てた

静かに広がる波紋を見ていると何故か胸がざわついた

それでも静かに揺れる湯を見ていると

自分の大きな鼓動が湯を揺らしているとわかるまで時間が掛かった

『女、か』

サイレンサー付きの拳銃を持ったヤツが1人

小さめの鞄を持ったヤツが1人

透明な湯に少しだけ赤みが混ざっていた

腕からまた血が少しだけ出ていた
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