第17章 甘い日
『大丈夫ですか?』
仁「...お前さん、外国の都会で何をしとったんじゃ?」
『勉学とテニスです』
仁「紐なしバンジーは勉学もテニスも使わんぞ」
『そうですか?』
何故か若干顔色の悪い仁王君は少しだけ元気がない
何時もより背中が丸まっている
そんな僕達が向かうのは近くの公園
そこで今日の事を話すらしい
マネージャーである僕も強制的に呼ばれたのであった
そんなこんなで今はその公園に向かって住宅街を歩いている
仁「...お前さん、紐なしバンジーなんて何に使っておったんじゃ?」
『そうですね。敵から逃げるために使っていました』
仁「敵?」
『はい、テニススクールに通っていた時の同級生から逃げるためです』
仁「......」
『なんですか?逃げていたのが不思議ですか?』
仁「それもあるが、それ以外にはなかったんか?」
『幾らでもありましたが、最終手段として使っていました』
仁「...そうか」
此処まで無表情の仁王君を見るのは初めてかもしれない
何時もは意地の悪い笑みを浮かべたり
必死になって心配してきたりと
人間らしい表情をいくつも見せて貰った
笑った表情、驚いた表情、嬉しそうな表情、心配そうな表情
いろんな表情を見てきた
仁「...屋上から地上に降りる事なんかやった事がなくてのう。若干、怖かったんじゃ」
『意外と素直ですね』
仁「お前さんは怖くなかったんか?」
『捕まって何かされるよりはマシですね』
仁「それで命を落としてもか?」
『その時はその時です。自分の技術不足などを恨んで逝きますよ』
仁「...嫌じゃ」
『え?』
急に立ち止まった仁王君の表情は少しだけ怒りを露わにしている
それに連なり、僕も自然と足を止めて振り返った
仁「お前さんがそんな事で死ぬなんて俺は許さん」
『仁王君...』
仁「氷月...死なないって決めたんじゃろ?じゃったら」
『すいませんでした。今の発言はなかった事にしてください。僕も少し反省しています』
仁「......」
『......』
静かに両腕を広げる彼が何を求めているのかわからない
静かに近づいてくる彼が何を考えているのかわからない
静かに微笑む彼が何をしてくるのかわからない
僕を静かに抱き寄せると、彼は少しだけ嬉しい表情へと変わった