第13章 テニス
両脚はネットに平行に並んでおり
つま先も全く別の方向を向いておった
バックの格好で背中を相手に見せ、視線はボールへと集中
そして、体の回転をフルに生かし相手へと打ち返す、が
そんな超人な事は普通は出来ん
出来んと言うのはコートから眼を離すからじゃ
落としたい場所を凝視して打ち返すのが原則じゃが
コイツはいろんな所で違うのう
『恐ろしいテニスですね』
幸「それは褒めているのかな?」
『一応は』
幸「フフ、そうか」
試合は6-4で氷月の勝ち
神の子までに勝つんか
てかそのラケットは何処から持ってきたんじゃ
『ありがとうございました』
仁「?、何がじゃ?」
『?、ラケットですけど』
幸「ああ、言ってなかったね。俺が仁王の鞄から取ってきたんだよ。氷月は左利きだからね」
仁「...マジか」
よく見れば俺のじゃった、何処かで見た事あるとは思っておったがのう
日が完全に落ちた真っ暗な夜
また氷月が1人で壁打ちに出かけて行った
昨日の事を考えれば当分はやらんと思っておったんじゃがのう
昨日の場所に来てみれば昨日と同じように打っておった
1人で打っとるにも関わらず
何かしら負の雰囲気が漂い始め
それに俺は直感で氷月が危ないと思い近づいた
しかし、寒いのう
雪は降っても積もらん、ただ地面を湿らせる程度のものじゃ
河川敷に降りて氷月の元に向かう
右手で20回、左手で20回と交互に打っていく
その際に10回目でボールを止めてサーブをする
仁「壁打ちじゃとつまらんくないか?」
『そんな事はないですよ』
特に驚く様子もなければ、俺は氷月の鞄が立て掛けてある壁にもたれる
自分を中心として壁の左右に当てて行く
綺麗な回転が掛かっており屈折してそのままボールは何処かへ行くわけでもなく
必ず氷月のラケットに吸い寄せられるように戻ってくる
これだけで普通の壁打ちではない
そんな事を思っておるのもつかの間
仁「?」
此処からだとハッキリわかるが
氷月の体が段々固まってきておる
動きが鈍くなると言う表現よりも固まっていると言うのが正しいじゃろう
『うぅ...!』
仁「氷月!」