第3章 「動き出す歯車」
第一話「影と少女」
──某チャットルーム、休日の夕刻──
──夜桜さんが入室しました──
(こんにちはー)
[夜桜さん今日はー]
【あ、夜桜さんっ。夜桜さんはダラーズって知ってますか?】
(ダラーズ……ですか? いえ、知りません)
[まあ、夜桜さんは最近東京に来たばかりですからねー]
《ネットとかでも凄い噂になってるんですよー!》
(そうなんですか……。今度検索してみます)
《あっ、それとそれと、黒いバイクも有名ですよ!》
[あー……]
【黒いバイク……?】
(高級なバイクとかの話ですか?)
《違いますよぅ! 最近池袋で話題のやつ!》
* * *
東京都、文京区某所──
平日、深夜にも関わらず少女はバックを肩に提げて歩いていた。
腰までの長く艶やかな髪は歩く度揺れ、街灯の光を受けて暗闇に残像を残す。
見た目は十代中程で背は小さめ、身に纏っているのは上下共黒い服で暗闇に同化していた。
「こ、の……化物めぇええっ!」
「……?」
静寂で占められたその場所に、男の叫び声が響き渡った。
少女はその声を聞き、不思議そうに首を傾(かし)げて叫び声のしたであろう場所へ足を進めた。
立体駐車場に入り、暫く歩いていると少女とは別の足音が聞こえてきた。彼女は咄嗟に、まばらに停まっている車の影へ隠れた。
少女は車の隙間からほんの少し顔を出し、様子を覗いく。
彼女の目は、首筋に刺青を刻んだチンピラ風の男と、揺れ動く漆黒の物体を捉えた。
* * *
《昔から都市伝説みたいな感じだったんだけど、携帯のカメラで撮られたりして一気に有名になったんです!》
[あー、別にあれは都市伝説でも何でもないですよ。普通の暴走族って言うか……あ、まあ単独なんですけどね]
《二輪なのにライトつけないで走ってるんだよ? ──ま、人間じゃないなら知らないけど》
【あのー、話が見えないんですが……】
(幽霊……?)
《ああ、えっと……ぶっちゃけ化物みたいなものですよ!》