第9章 イリーナ・イエラビッチ
私たちは一緒に学校を登校することになった。
「あ、そういえば…」
私はカエデに赤羽くんとのことを言っていなかった。
「ね、ねぇ赤羽くん…」
「ん?なに?」
「そ、その…カエデとか渚くんには、私たちのこと言っていい…?」
やっぱりこれは二人のことだ。赤羽くんの許可も必要だろう。
「茅野ちゃんはいいけど渚くんはダメだよ」
「え?」
私は正直逆だと思っていた。
渚くんとは1、2年の頃から仲が良かったから。
「なんでカエデがよくて渚くんがダメなの?」
素直に思ったことを口にした。
「だってさー、そうするとののちゃんと渚くんとの話題が増えるじゃん」
「?? いいことじゃないの?」
なぜ私と渚くんの話題が増えるのがいけない事なのか私には分からなかった。
むしろ渚くんとの会話は楽しいから話題を増やしたいぐらいだ。
「よくないよ、だって渚くん可愛いからののちゃん好きになっちゃうかもしれないじゃん」
――ドキッ
これはいわゆる『嫉妬』という類いのものだろう。
まだ私は経験していないけど辛いものということは知っている。
恋愛小説に書いてあった内容を思い出し胸が苦しくなる。
赤羽くんにそんな思いはしてほしくない。
私は赤羽くんが私のことをそんなに思ってくれていることが嬉しかった。
「そ、そっか。わ、わかったよ////」
ついつい嬉しくて顔がニヤけてしまう。
そんな表情が見えないように横を向いた。
すると、とあるカップルが目に映った。
手をつないでいた。
私は自分の手を見た。
手1つ分くらい余った袖口を見てとある記憶がよみがえる。
あの夜のことを。
路地で泣いたあの日のことを。
『自分は赤羽くんの隣にいていいのか?』
私は赤羽くんの手を見た。
大きくて袖からしっかりと出ている。
私は距離を感じた。
そもそも私たちは人種が違うことを思い出した。
私は赤羽くんとの距離を10cmほどおいて歩き始めた。
赤羽くんとの人種の差はその距離の数倍は離れていると思うと胸が痛くて辛かった。
私は赤羽くんとの関係を誰にも言わないと決めた。