第1章 first chapter
~Sside~
大手企業の部長職についている男が、男を恋愛対象として見ているなんて、誰にも言えない。
だから、俺は普通の男を演じてきた。
本当の自分を隠して、どちらかというと苦手な部類にはいるキャピキャピ系女子社員達に笑顔をふりまいていた。
そのため、女子社員から黄色い声援を送られるようになったり、告白されたりするようになった。
女子社員からの黄色い声援なんてなんにも嬉しくなかったし、告白されたときに言った「俺、彼女いるから。」という言葉も、もちろん嘘。
でも、嘘の効力は弱く、期間も短かった。
熱狂的な女子社員に嘘がばれ、しつこく迫られていた。
そんなとき、松本が俺の部署に異動してきた。
俺は、松本と関わるうちに、松本に好意を持ち始めた。
松本の笑った顔、拗ねた顔。
全てが愛おしく思えた。
でも、松本は、違う。
松本は普通の男だ。きっと、彼女もいるだろう。
それに、松本と俺は、上司と部下という関係。
社内で噂が広まれば、有能な松本の未来はどうなるかは目に見えている。
だからこそ、この気持ちは胸に秘めておかねばならない。
そんなことは、わかってる。
でも、
でも、
自分の中でとどめておけるか不安なほど、気持ちは日に日に大きくなっていった。