第1章 first chapter
J side
僕は望んでいたのだろう。
部長の口から、「松本が好き」と言う言葉が出ることを。
でも、やっぱり、そんな淡い期待は打ち消された。
僕が、部長のことを好きになっては、いけないと、分かっているのに。
部長のあの優しい声、少し触れただけでも伝わる手のぬくもりは、やっぱり、忘れられなくて。
僕が部長を想う気持ちは、日に日に強く、確かなものになっていく。
僕と、部長は、住む世界も、何もかもが違う。
そんなことだって、わかっている。
…………はず。
ふと、考える。
頭の片隅では、両想いになれるんじゃないか。
そう思ってるのではないか、と。
そうやって考える度に、自分の愚かさを改めて実感する。
いつまでも現実を見ずに夢ばかりを見て追い続けて。
僕だってアラサー。そう、若くない。
そろそろ、ちゃんとこの先のことを考えて行動しなければならない年齢に差し掛かった。
だから、
だから、
部長のことを、忘れたい。
でも、
忘れられないし、忘れたくないのが現状だ。
この、僕の想いは、どうしたらいいのだろうか?
思考力の乏しい僕には、いつ考えても、どう考えても、結論は出なかった。