第4章 恨み憎む男ー灰崎ー
「ね?いかがですか?」
にこ、と笑う彼女に俺は一瞬また説得しそうになった
そんな自分に気付いて慌てて口を噤む
…そうだ
少し変わってるだけで、所詮この子だってただの人間だ
何を戸惑うことがある?
「…わかった、」
肯定すると、少女は動揺するべきところで安心したように息を吐いた
…本当に変な子供だな
「それでは、どうぞ」
そう言って、彼女は羽織っていたカーディガンを脱いで首にかかる長い髪を掻き上げた
露わになった首筋に俺の中の本能が騒ぎ出す
ごくり、また喉が鳴った
そっと腕を伸ばして華奢な肩に手を乗せる
ゆっくり顔を近付けて、色白の肌に顔を擦り付けた
髪からする花の香りと、いつものように皮膚越しにする血の匂い
でもそれは今まで嗅いだこともないくらい美味しそうな芳香だった
…これは期待できるかもしれない
我慢出来ずに口を開けて、
柔らかい肌に牙を押し付けた
「…噛むぞ」
「ええ」
こんな状況になっても、その声はまったく震えていない
変な女、と思いつつゆっくりと牙を埋めていくと、一瞬だけ細い身体が身じろいだ
でも今更止められないし賭を持ち掛けてきたのは彼女の方だ
そのまま、溢れだした温かい血を吸い上げた
「…………!!」
一口飲んで、その味に驚いた
…すごく美味しい
血が好きじゃない俺でもそう感じるほど、
彼女の血は美味だった
さらさらで、甘くて滑らかで香りもいい
今まで飲んだことがない類の美味しさに
俺は知らぬ間に目を閉じてその血を味わっていた
驚いた
こんな血の持ち主がいたとは
これなら幾らでも飲める気がする
幾らでも………