第4章 恨み憎む男ー灰崎ー
「…あなたは吸血鬼なんですか?」
「あぁ」
ほら、だから早く逃げるんだ
「…わかりました、いいですよ」
「は、」
「私の血で良かったら、どうぞ」
それはまるで本当に献血を求められた人間のような口振りだった
…いや、そんなに簡単に了承されても
別に不都合ではないが
「お前、意味を分かってるのか?
献血とはレベルが違うんだぞ」
「ええ、わかっています」
いや、絶対わかってない
「…死ぬぞ、お前」
遠回しに言ってやるほど優しくない俺はそのまま告げた
紛れもない真実だ
今まで俺が血を吸った人間共は一人残らず死んだ
生きてた奴なんていなかった
だから彼女も絶対に死んでしまうだろう
それを、彼女はまるでわかっていない
「わかっていますよ」
でもさっきと変わらない返事に、
俺はなかなか苛ついた
だから、お前はわかっていない
「…俺は吸血鬼だぞ?」
「ええ」
「…絶対に死ぬよ」
「死にませんよ、私は」
その自信は一体どこからくるんだろう
恐怖も不安もない笑顔に俺はどうしたらいいのかわからなかった
「だから、死ぬと言っているだろう」
「死にません」
「今までの人間で死ななかった奴なんていないんだ」
「あら、それでしたら私が第一号ですね」
「……わかってないな」
「わかっていますよ」
一向に意見を曲げない彼女に流石に苛ついた
だから死ぬんだと
何回言えばわかるんだ
…………って、
いつの間にか彼女を説得するのに必死になっている自分
…なぜ説得する必要がある?
いつもみたいに躊躇することなく
噛み付けばいいじゃないか
なぜ、俺に血を吸われるのを俺自身が止めなければいけないんだ
意味がわからない
「赤司さん、このままでは埒があきませんよ」
「…そうみたいだな」
「ここはいっそのこと賭けてみませんか?」
「賭け?」
「もし私があなたに血を差し上げて、それでも死なずに生きていたら私とお友達になって下さい」
「…もし、死んだら?」
「あら、死んでしまったらしまったで
あなたは喉も潤うでしょうし、いいでしょう?」
「まぁ…そうだが」
確かに、俺にデメリットはないんだが…