第4章 恨み憎む男ー灰崎ー
思考停止
3秒の沈黙の後、俺が発した言葉は
「……は?」だった
いや、この女は何を言っているんだ
いくら俺の正体を知らないからといって、今出会ったばかりの明らかに怪しい少年に友達になって下さい、とは
だが、俺はそれとは違った動揺を感じた
…友達になってくれ、なんて
そんなことを言われたのは生まれて初めてだった
別にそれが嬉しかった訳じゃない、断じて
とにかく俺は動揺を隠すように、
できるだけいつも通りに言った
「…俺は誰かと群れるのが嫌いなんだ」
「群れ…?」
「弱い者ほど群れたがるからな」
「あら、そういうことでしたら大丈夫です」
にっこりと笑ったその子
…なにが大丈夫なんだ
溜め息をつきそうになったのを堪えて
怪訝な顔を彼女に向ける
そんな俺にも彼女は笑顔を崩さなかった
「2人なら群れとは言いませんよ」
その言葉に今度は俺がキョトンとした
…いや、確かに意味的にはそうだが
「…いけませんか?」
少しだけ彼女の表情から笑顔が消えた
不安げに俺を見る金色の瞳に、困惑した顔をした俺がうつっている
ちらり、真正面から彼女の首筋を見た
赤毛の間から真っ白で細い肌が覗く
ごくり、喉が鳴った
「…血」
「え…」
「血を…、くれるなら、いいよ」
無意識のうちにぽろ、と零れた言葉
多分本能で出たんだろう
自分で言っておいて驚いた
でも訂正する気はなかった
流石にこれでわかっただろう、俺の正体
まさか、ここまで言ってどこかの献血団体だとは思わないだろう
さぁ、顔を青くして次の瞬間に逃げ出せばいい
その背中を追い掛けて、悲鳴を上げる体を無理やりに捕まえて
泣き叫ぶ声に連動して震える喉に牙をたてる
恐怖で一杯になった人間の血が今まで飲んだ中で一番マシな味だった
でも目の前の彼女はなかなか逃げ出そうとしない
それどころか、俯いて何かを考えている
…何をしてる
さっさと逃げろ
まさか悠長に逃げ道でも確認しているのか
それとも何と言って見逃してもらおうか、とでも?
俯く彼女をじっと見つめていると、
その小さな頭はいきなり上がって俺を見た