第33章 コエ
その後言葉を続けるでもなく、船長さんは小さな樽のようなジョッキを傾けている。
気もそぞろで、私は正直食事ではない…。
店員さん…ダンさんはニューハーフだと知ったあとでも、あの激情は嘘ではないと言い切る自信がある。
あれは本物であった。
だからこそ緊張した。
人に、あれだけの感情をぶつけられたのは久しぶりであった。
器に盛った分をなんとか食べ終え、スプーンを置く。
「ごちそうさまでした。」
つぶやくようにいえば、ベポくんとシャチさんがギョッとしたようにこちらを向いた。
「え、マジで大丈夫かよ。全然食べてなかったじゃねぇか。」
「デザート食べる?」
そう言って自分のそばにあった食べ物や、フルーツをとってくれるが、私はゆるくかぶりを振った。
「なんか、本当に一杯で…。ちょっと夜風に当たってきてもいいですか?」
食事を終えたのか、お酒を飲み始めた船長さんに問えば鷹揚に頷かれた。
「この店前通りなら、どこに行ってもいい。ただし脇道や別の通りには入るな。」
頷けば、船長さんは視線でお店のドアを示した。
私は頭を下げると、喧騒から離れるようにドアへと向かった。
外に出れば、そこはやはり活気付いていて。
店の中の雰囲気とさほどは変わりなかった。
しかし空気がたくさん吸えるような気がして、私は一息つく。
店の前にあったベンチが目に止まり、腰掛ける。
今日、ダンさんのお店で買ってそのばではいてきた靴が目に止まる。