第7章 初太刀・初脇差
★★★
(相も変わらず、キモイ奴だ…。見ているだけで、吐き気がする。)
千隼が小夜左文字と行ってしまった後、橘高康晴は彼女等の後姿を見ながら思った。
彼の今の顔は、さっきまで表情筋が働いていたのに、働くのを止め、真顔になっている。
(”今回も”お前らを潰してやるから…。)
栗色のフワフワした髪に、同じ色の垂れた目、美少年な見た目の雰囲気は優しいモノを醸し出していた。
だが、今はそれとは真逆、彼女がいなくなった瞬間、冷酷で冷めたモノになった。
「って言うか、さっきからそこに居るの分かってるよ。出てくれば?」
口の前に自身の手を置き、鼻で笑っていた。橘高はそうしながら、彼の斜め後ろにある校舎の陰に視線を流した。
彼の言葉を合図に一人の長身の男が出てきた。アッシュグレーの髪に紫色の目、聖職者の様な服を着ており、手には黄土色の鞘の刀を持っていた。
「主、さっきの者が主の仰っていたーー、」
「あはは!そうだよ、ボクが言ってた奴らの事だよ。お前もさ、キモイって思わないか?アイツの事。」
「そうですね…。」
男は橘高の前に出れば、恭しく、右手を胸に当てながら一礼する。
そんなのは要らない、そう言って何が可笑しいのかさっきよりも大きい声で可笑しそうに笑う。その顔は歪んで、端正な顔立ちは何処かへ行ってしまった。
「あ~あ、ホントお前ってつまらない男だよね~。なんか言えないの?」
体が男の方に向かれる。男は橘高の台詞に動じず、「申し訳ありません。」とだけ言って、また一礼した。依然として無表情のままに。この男も酷く顔が整っていた。
「まあ、いいや。…取り敢えず、第二部隊にアイツの本丸の偵察に行かせておいて。初期刀以外は短刀だ。」
「分かりました。」
「ああ、後、お前以外の第一部隊はある場所に行かせて。」
橘高は男に背を向け、歩き出した。だが、数歩歩いた所で止まり、振り向いた。
「ーー…。」
ニヤッと口角を上げ、男に話す。その言葉を聞いた男は一瞬目を見開いたが、直ぐに無表情に戻り、一礼した。
「さあ、時間だよ!今回はどんな顔を見せてくれるかな~。楽しみで楽しみで可笑しくなりそうだ…。」
そんな台詞を残して、足を進める。そして橘高の数歩後ろを男は歩く。
彼らも千隼達が向かった体育館を目指すのであった。