第6章 ”オカミさん”
「さあ、奥の座敷へどうぞ。色々やりたい事や話したい事が有るから。」
ただ、どっかに行こうとしているオカミさんの後姿を見ているウチ等に、さっきまで二階に居る四人の人が居た部屋へ招く。
一言、店内を見ている短刀ちゃん達に言ってから、座敷に上がった。
「少し待っててね。」
四角形のちゃぶ台に五つの湯飲みが置かれてる。オカミさんはそれらをお盆に乗せて、奥に運んだ。それから数秒もしない内に、お盆に三つの湯飲みを乗せて戻って来た。
早い!?瞬く間なんて無かったよ、今!
「さーて、千隼ちゃん。これにフルネームで書いて貰えるかしら?」
座布団に座ったウチの前に、硯に筆に、半紙に…書道の道具が一式置かれた。
向かいに居るオカミさんは、めっちゃ綺麗な笑顔。
書道なんて久しぶりなんですけど…。って言うか何で名前書かなくちゃいけないの?
筆に墨を馴染ませながら、眉間に皺を寄せた。
「まあ、いいか…。」
考えるのを止めて、高級そうな半紙に”岩動千隼”と漢字で書いた。紙にシャーペンで書くのと違って、幾ら書き慣れている自分の名前でも下手になる。
「うっわ、下手くそ…。」
そう言うと思ったよ。自分でもそう思ってるのにさ…。母さんの方が凄く綺麗に書けたんだろうな…。
母さんの事を考えていると、名前を書いた半紙をオカミさんが手にする。
「うん。この位の字なら、大丈夫。さあ、始めるわよ!」
いや、何を!?移動する半紙を目で追ってると、オカミさんは何処からか黒と黄色の綺麗な模様が描かれた扇子を取り出す。
そのまま扇子をウチの名前が書かれた半紙の上に翳す。
「〈今、ここにこの名の者を”審神者”とす。〉」
光るはずの無い半紙が光り、宙に下手っピーなウチの名前が浮かんでいた。それから、オカミさんが持つ巻物に吸い込まれる様に、消えて行った。
「え、え!?」
「これで、”正式”に審神者として登録されたわ。」
半紙と巻物を交互に見てしまう。何が起こったの?しかも正式にって…。
「各本丸がお世話になる万事屋で、登録しないと審神者として認められないの。だから貴方が来ないから心配したわ。でないと幾ら”審神者の力”が在っても、政府に睨まれる。」
巻物を巻きながら、穏やかな口調で語る。
ああ、だからこんのすけは急かしてたんだ…。