第6章 ”オカミさん”
「”粟田口吉光”は主に短刀を作る名手で、鎌倉時代中期の刀工です。沢山の刀を生み出しているので、沢山の兄弟がいるんです。」
丁寧にかつ、ウチが分かる様に話してくれる前田藤四郎。じゃあ、彼の他にも”藤四郎”と名が付く刀剣がいるんだ。
理解した後、もう一つ疑問が浮かんだ。
「じゃあ、何で刀の君は人間の形がとれてるの?人間の形を得るのには審神者の力が必要不可欠だよね?こんのすけだって…。」
前田藤四郎は首を左右に振る。どうやら彼自身も分からないらしい。ただ、そう言って口が開かれる。
「ただ、加州さんや今剣君の所に行く前に、そのこんのすけと呼ばれる狐に会いました。」
「それは君が起きた時?」
「はい。起きた時に見知らぬ方々と、こんのすけと自ら呼ぶ狐が目の前に居ました。その方々からどうして人間の姿を与え、起こしたのか理由やこの時代の事を教えて頂きました。」
知らない人達?それにこんのすけ?困惑するような事が一度に大量に来て、頭がパンクする。
「だから、今度の主君は起こして頂いた方なのかと思いました。ですが、こんのすけ殿にマントを引っ張られ、自分が目覚めた場所を後にすると、いつの間にかあそこに居たのです。こんのすけ殿はいつの間にかおられないし…。」
要するに、人間の姿を与えられて直ぐ知らない時代、場所に連れてかれて、置いてかれたと言う事?
何それ…。
「変な、嫌な話…。」
顔をしかめて言えば、前田藤四郎は薄く笑顔を作り、首を左右に振った。
「使える主君が他に居るのだと、その時分かりました。なのでその主君を探しにこれから行ってきます。」
助けて頂き有難うございました。立ち上がり、一礼する。そして、そのまま手入部屋から出て行こうとする。
まだ人の体を得て戦う事に慣れてないんでしょ?それってーー
「行く当てが分からないんなら、ウチに居ればいいよ!」
ーーこの刀(こ)が自分から死にに行くもんじゃん…。それが目に見えているのに…。
彼の腕を掴む。見開いた二つの眼がウチを捕まえる。
「ですが…。」
「このまま行っても、君が死んでしまう。だから加州はここに連れて来た、そうでしょ?」
手を離し、加州を横目で見る。相も変わんない真顔だけど、何となくそう思えた。
「いいんじゃない?ここに居たって。」
笑顔を見せて前田藤四郎に語り掛ける。
