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審神者と刀剣と桜

第6章 ”オカミさん”


 するつもりもない。そう言って、ウチの頭を撫でる。寝ていた時のそれとは違って、優しいものだった。
 でも、そんなのは刹那な時間で、直ぐに頭を殴られた衝撃と痛みで顔を上げる事になった。

「痛ったい!」
「だーけーど、たったそれだけで手を叩くのはどうかと思うんだけど…。だからお返しだ。二倍でね。」

 ウチにチョップしたのか、手が手刀の形になっている。まだ根に持ってたのか…。アイアンクローにチョップって、君の力だと二倍じゃなくて四倍だ。
 加州は下を出してあっかんベーの形をとっていた。完璧に腹立たしさにジョブチェンジした。ムカつく…。
 だけど、何処か落ち着く。どうしてなのか分からないけど。

「あっ…。」

 そんなやり取りをしている間、大事な事を忘れていた。前田藤四郎の存在を忘れていた。
 ヤバい…。なんて思いながら、前田藤四郎の方を見る。彼はきっちりした姿勢のまま正座で、一言も喋らずにウチ等を見ていた。
 いつの間にか、今剣の隣に移動もしていた。

「あの…ごめんね。」
「いえ、大丈夫です。大事そうな話でしたので。」

 にこっと笑い、ウチの所に来た。うん、いい子だ。本当にしっかりしてる。

「あ、言っとくの忘れてた。その子、刀だよ。付喪神、刀剣男士。」

 見てみなよ。加州の指が示したのは前田藤四郎の腰、詳しく言えば、腰に差しているモノだった。
 刀ーー短刀が腰に差してる。…確かに刀剣男士の可能性があるよね…。
 困惑してると顔に浮かべながら、加州を見れば、ブッサイクだなと返された。ブサイクなのはもとからだ、悪いか!

「加州さんが仰る通り、刀です。”粟田口吉光”が作りし短刀が一振り、前田藤四郎と申します。」

 正座の状態から頭を下げる。その後から、しっかりと名乗るのが遅くなってしまった謝罪も付けて。
 いや、色々あったからそうなっちゃってもしょうがないから。それよりもーー

「”粟田口”って何?」

 こっちの方が問題だとウチは思う。
 刀の事なんて本当に諄いけど、何も知らない。知らなくても生きていけるし、知っていなくちゃ損だと言う訳じゃない時代に生きてるから、そんな知識は一切ないよ。

「え…。」
「だろうね…。」
「あ…あ、ごめんなさい。」

 謝るウチに前田藤四郎は「大丈夫です。」と答えてくれた。やっぱり刀剣の知識を得ないと、ヤバいな色んな意味で。
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