第6章 ”オカミさん”
「ウチが審神者をやる理由…。」
千隼は加州の言葉を復唱しながら、思い出していた。
★★★
『これは未来の君や私たちや祖国に関わるんだ。だから、なって欲しいんだ審神者に。』
通っていた高校で呼び出された時、政府の人から言われた。それでも、ウチにとって日常が崩れる言葉にしか聞こえない。
『さっきも言ったけど、歴史が変われば、君が”今居る”という出来事が無くなる。君の両親が違う人になる、兄弟がいるのならその兄弟の存在さえ危うくなる。』
高校生ならこう言わなくても何となく、理解してくれるよね?初老の政府の人が言う。
この人が言ってるのは本当だ。一つでも歴史が狂えば、自分が自分で無くなる。それに、歴史を変えると言う事はーー、
『理解してます。』
だからウチはーー、
★★★
「ウチは…好きな人が居なくなるのが嫌だ。…存在が無かった事にされたくない。だから…守りたくってここに来た。それに、過去に生きた人達がどんなに馬鹿げた人生を歩んでいようが、それを否定したくない…。」
「ちゃんと、”理由”が有るんじゃん。」
自ずと目から涙が流れる。今、涙を見せても加州は特に何も言わなかった。寧ろ、優しく微笑みかけられた。
涙を見せているのが恥ずかしくなって、手の甲で涙を拭う。なんだか鼻水まで流れ始めてきた。
「うわッ…汚っ!」
鼻水が垂れたウチの顔を見た加州はケラケラ笑いながら、遠慮なく言ってくる。
「すんごく、酷い顔になってるの分かってるし!」
涙声になりながらも反論する。前田藤四郎がこの部屋にあったらしいティッシュを箱ごと、渡してくれた。
加州の笑い声に、ウチの鼻をかむ音が部屋の中で変な音を奏でる。
いい加減に笑い終わってくれないだろうか…。だんだん恥ずかしさから、怒りに変わってきている気がする。
「あ~あ、笑い疲れた~。」
笑った所為で涙が出たらしく、自分の指で涙を拭いながらやっと笑うのを止めた。
「取り敢えず、アンタと一つ約束するよ。」
アンタも約束したし、昨日。そう言って、真面目な表情になる加州。
「”アンタを殺す”ような事はしない。絶対守れる保証なんて無いけど、こういうのなら守れるだろ?それにさ、嫌な奴だけど、殺そうなんて思ってもいないし。」