第6章 ”オカミさん”
「有難う。」
突然、お礼を言われれば誰だって驚く。だって驚いた顔で前田藤四郎はウチを見るから。
この子がウチを起こしてくれなかったら、加州とした約束を早々破る所だった。それにーー、
「”また”失う所だったから。」
ウチの口から呟かれる言葉に前田藤四郎は首を傾げる。ウチはウチで思考が止まった。
無意識で出た言葉。今自分がなんて言ったのか、もう一度思い出そうと思考を働かせる。自然と顔が下に向くし、顎に手をやっていた。
”また”なんて…審神者なんて”初めて”なのに、何で…?何で”また”?
「え…あ!?」
前田藤四郎の慌てる声に、顎から手を離し、顔を上げると行き成り誰かの片手がウチをアイアンクローしてくれる。
痛い!痛いんですけど!?
「さっきはよくも、手を叩いてくれたな…。」
視線の先にはさっきまで横になっていた加州清光が、体を起こしながらアイアンクローしてくる。
体の傷は打粉で全て消したから無い。でも、動けるまで回復はまだなのに…回復早!?
「痛い!痛いです!!」
ぺチぺチ軽く、掴んでいる手を叩く。力がどんどんかかってきて、もう耐えられなくなってきた。
頭を締め付けられる感覚が無くなって、手が離されたのだと分かった。
「…もう、動けるんだね。」
「お陰様で。」
頭を摩りながら言えば、胡坐を掻きながら嫌味たらしく返してくる。
今剣は寝息を立てながら寝ている。起きる気配はない。
「良かったです。傷が癒えて…。加州さん、助けて頂いて有難うございました。」
「ああ…だから、もうお礼はいいから。」
近寄って来た前田藤四郎の頭を優しい手付きで撫でていく。加州の台詞から何度もお礼を言われたんだと予想が付く。
「って言うか、時間、まだ残ってるよ。」
「だろうね。起きれるし、話せるけどまだ体が重い。」
部屋の中にある木の板式のタイマーが数字をうつしている。今回はまた力の消費を抑えるのと、二振りには休んで欲しくて手伝い札を使わなかった。
だから肉体的な傷は癒えても、疲労や傷を受けた時の影響はまだ時間が掛かる。これも昨日こんのすけから聞いた。
「だったら寝てればいいじゃん。無理してさ…。」
顔を背けながら、ウチは加州に言い放つ。
「アンタに言いたい事が有るから無理してるんですけど。」
溜息一つ吐いて、台詞を続ける。