第6章 ”オカミさん”
「か、加州!?」
千隼は蹲る加州の許へ踵を返した。彼女を起こした少年も加州の隣に来ていた。
「くっそ…。」
彼の指の隙間が赤く染まっていく。今まで味わった事の無い痛みに、顔を歪めずにはいられない。
昨日は気絶した事や、目が覚めたのが手入後だった為、痛みはそこまで感じはしなかった。
人の体を得たからこそ感じるモノである。
「加州さん!!まさか…あの時の…。」
少年は加州の腕を肩に回しながら、呟いた。
(あの時…?)
彼女は少年の行動に茫然と見ているだけだった。何事もないと思っていた光景が、一瞬で騒然としている。
頭の中が真っ白になっていた。
「貴方がこの本丸の主君でおられるのですよね?」
何も行動を起こしていない、起こさない千隼に、少年は話しかけた。。
千隼は少年に目を向ければ、少年の顔は今にも泣きそうだ。
「”前田藤四郎”と申します。加州さんと…今剣君を…助けて下さい…。」
”前田藤四郎”と名乗った茶髪の少年は涙声にそう言った。彼の両目からはこれでもかという程、大粒の涙が零れていた。
(今剣にも何かあったの?嘘でしょ…。)
心臓が鷲掴みされたように痛い。千隼は胸の辺りをギュッと握りしめた。
あの夢の事は一切、彼女の頭には今は無かった。
★★★
加州を一緒に手入室に運べば、そこには今剣が横になっていた。
今剣も加州程ではないにしても、かなりの傷が体中を埋め尽くしていた。帰ってこいって言った時は、ここまでじゃなかったのに…。
「今剣…!」
ゆっくりと加州を置いた直ぐに、今剣の許に近寄った。本体に付けていた刀装がそこには無かった。
「あ…るじ…さ…ま…?」
薄く開かれる赤い目に、ウチの姿が見えた。今剣はウチの姿が分かったのか、笑顔を見せた。
「ぼく…がん…ばり…ましたよ…。」
こんなに傷ついているのに、何で笑顔が出来るの?あの夢の中のウチも、刃を向けられているのに何で…。
「そうだね、お疲れさま。寝てていいよ。」
涙を堪えながら、笑顔を向ける。安心したのか、直ぐに今剣から寝息が聞こえた。
加州の方からも同じ様に寝息が聞こえる。
「君が何者で、この二振りが帰って来るまでに何があったのかは後で聞くから、…手伝ってくれませんか?」