第6章 ”オカミさん”
「…の…あの!」
声が遠くから聞こえる。多分ウチの近くに誰かいるのかも…。声は加州のモノでなければ、今剣のモノでもない。
ついには控えめに体を揺らされ始めて、顔を覆っていた両腕を離した。
「え、…誰…ですか…?」
顔を覗くように見てくる声の主と目が合う。
今剣と同じ位の少年。明るめの茶髪で、前下がりのおかっぱヘアー。制服のような服に、マントを着用している。
後退っていれば、机にぶつかる。これはぶつけた所に青痣が出来る…。
「痛い…。」
「大丈夫ですか?」
当てた所を摩っていれば、茶髪の少年は近寄ってくる。近づかれて初めて気付いたけど、この少年ーー
「刀…。」
短刀を持ってる。何で小学生位の子がそんなの持ってるの?って、今剣に対しても同様の事言えるのに…。
少年の腰辺りを見ていた目を少年の顔に向ける。この子もとてつもなく顔が整っている。
もう一度、目の前の子が何者なのか問おうとして声を発したのに、聞き覚えのある声に遮られる。
「”前田藤四郎”?アイツ見つけれた?」
足音と共に声が近づいて来る。ついには開いていた部屋の扉に姿を現した。
「か、加州…。」
「なんだ、やっぱここに居たじゃん。」
ツーンと鉄の臭いが鼻につく。加州の姿を見る為、視線を上にあげる。
顔や体に無数の切り傷。加州が着ているTシャツは大きな模様みたいに赤が広がってる。
赤、赤…。
「帰って来たって、結構大声で言ってたのにさ…。何やってたの?」
黙って見ていれば、加州の手が伸びて来る。その光景と、少し前に見ていた訳の分からない光景が重なる。
「い…やめろ!!」
伸ばされる手を叩いた。パンッと乾いた良い音が、部屋に響く。
「な、…お前…。」
叩いた音と感触で自分が何をしでかしたのか、一瞬で理解した。ああ、何やってるんだろう。でも、ウチが見た光景の彼は間違いなく加州清光だった。
彼は叩かれた事に驚いてるのだろう。驚いた顔をしてこっちを見ていた。
視線を彼から離して、その脇を通ろうとした。何と言えばいいのか分かんなくて、この場を離れたかった。
「何処行くんだよ!?おい!!…あ、ッ…。」
★★★
千隼が背を向けこの場を去ろうとしたその瞬間、加州はその場に蹲った。彼女の耳に何かが床に当たる音がした。
彼は横腹を押さえていた。