第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
紅炎が去った後、莉蘭は夕食の時間になるまでずっと一人で自室に籠っていた。
悔しさで沈んだ気持ちは晴れず、誰かに会いたいという気持ちも、合わせる顔も無かった。
椅子にもベッドにも座らず、今はただ放心状態で床に座ってぼーっとしている。
何もする気にはならなかった。
あの扉を一歩出れば、また明るく過ごさねばならない。
今はそれが酷く億劫だ。
然し、時はそれを許してはくれなかった。
夕食が出来たと女官が迎えに来て、莉蘭はそれに合わせて笑顔を貼り付ける。
部屋には既に父も兄も揃っており、紅炎は此方を見てふっと笑いを溢した。
莉蘭はそれに何の反応も返さず、形式的に軽く挨拶をして席に座る。
父の様子に特に変わった処は無い。
少なくとも父と紅炎の関係は悪化してはいない様だ。
その事に少しだけ安心する。
特に何も無いのなら態々事を穿り返すこともない。
その後、食事の間は終始笑顔で居た。
夕食の時間はまるで本当に人形になってしまったかの様な気分だった。