第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
「ほう。この俺を突き放すとは。貴様、国がどうなっても良いと言うことか。」
その言葉を聞いた瞬間、莉蘭の肩が大きく跳ねた。
自分が何をしたのかを認識し、一瞬にして顔から血の気が引いていく。
それと同時に突き放していた力も弱くなった。
______やってしまった
莉蘭は激しく後悔した。
衝動的に紅炎を突き放してしまった。
怒りに呑まれて冷静な判断が出来ていなかった。
然し、それは此方の言い訳に過ぎない。
現在の自分の行動は国を代表していると言っても過言ではない。
もしこれで紅炎の怒りを買えば戦争に繋がるかも知れないのだ。
一挙一動に注意を払って然るべきなのに、自分は一体何をしているのだろうか。
目に見えて大人しくなった少女を、紅炎は再び上を向かせた。
先程紅炎を捉えた強い瞳は僅かに恐怖で揺らいでいる。
然し、未だ心は折れていない様だった。
それを確認した紅炎はまたしても笑みを浮かべる。
莉蘭はその笑みを、次は何をされても拒むまい、と意を決して見ていた。
然し紅炎は意に反して何もせず、そのまま踵を返して部屋を出て行く。
一人になった莉蘭はその場に崩れ落ち、只管涙を流した。
怖かった訳では無い。
只純粋に悔しかった。
何も出来ない自分が、力の無い自分が。
莉蘭はただ声を殺して泣いていた。