第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
夕食が終わり自室へと帰って間も無く。
明かりも点けない内に扉をノックする音が部屋に響いた。
今度は誰だと思いながら出迎えると、そこに居たのは兄の莉駿だった。
驚きのあまり一瞬固まってしまい、慌てて中に通す。
椅子に座るように勧めたが、莉駿は扉の前で立ったままだった。
「兄様?如何かなさったんですか。」
莉蘭が尋ねても莉駿は何も言わない。
それどころか、険しい表情をしたまま床を見つめている。
如何したものかと悩んでいると、結局話しずらい雰囲気なってしまった。
窓から射し込む月明かりが莉蘭を後ろから照らしている。
両者黙ったまま、時間だけが経過していった。
暫くして沈黙を破ったのは莉駿の方だった。
「本当に良いのか。」
突然の問いかけに意味が掴めず、莉蘭はきょとんとして問い返す。
「何の事です?」
「お前の…結婚のことだ。」
莉蘭は小さく深呼吸すると呆れた様に笑った。
何故、今になってそれを問うのか。
何故、話を知ったその日に来なかったのか。
言いたい事はいろいろ有った。
然し、今は何も言葉にならなかった。
莉蘭がその時聞きたかった問いの答え。
それはきっと彼が不器用だからだ。
真っ直ぐで、心配性で、心根の優しい兄。
今もきっと内心ではあたふたしているに違いない。
______この人らしい
気がつくと笑みが溢れていた。