第39章 錯綜と進む針と
花が咲くようにうまれ続ける火の玉は、ある種幻想的な風景を作りだしていた。
なにが起きているのか、脳が処理し始める前に、彼女がくるりと背を向けたことに気づく。
そのまま彼女は、暗がりの奥へ歩きだした。
「っ、待ってくれ! ぅあっ!?」
あわてて踏みだした右足に、鋭い痛みが走る。
目を落とせば、煌々と燃える火に足を絡め取られていた。
痛みばかりでなく、どうしてか足が動かせない。
床に釘で打ちこまれたかのように、一歩も彼女に近づくことができない。
「待っ――」
頭が熱い。
こめかみを重いなにかが這いずり回っている。
右耳の近くがずきずきと痛い。
「公子……っ!」
彼女の背中が見えなくなっていく。
意識がもうろうとする。
うるさく痛み続ける右の頭をおさえ、その場にうずくまり、膝をついた。
「――」
誰かの声が聞こえた気がした。