第39章 錯綜と進む針と
続く言葉が、ふつりと抜け落ちる。
一瞬頭が真っ白になった。
目の前の光景を、自分の予感を、“彼女が手にしているもの”を信じたくなくて、アルフレッドはかぶりを振る。
指先が急速に冷えていく。
握りしめた拳は、微かに震えていた。
足下の床がひび割れて、今にもがらがらと瓦解していくような不安が背筋を這う。
「どうして……」
喉が乾いて、捻りだした声はかすれていた。
頭の中がぐるぐると混乱している。
言いたい言葉と、言うべき言葉が殺到して、言葉に変換されないものが嗚咽となって溢れる。
「どうしてきみが、“それ”を持ってるんだい!?」
彼女の腕には、見慣れたシロクマが抱かれていた。
それは紛れもなく、マシューの“クマ二郎”だった。
彼女はアルフレッドの一喝にも答えない。
それどころか、まるで聞こえなかったかのように、唇をゆっくりと笑みの形に歪める。
月明かりを浴びて、彼女は悠然と微笑をたたえていた。
言いようのない不気味さを感じ、アルフレッドは思わずつばをのみこむ。
と、薄暗い闇のなかに、ぽうっと新たな光源がうまれた。
彼女の黒いワンピースの裾へ、赤い炎が蝶のように舞い降りていた。
ぱっと火が咲き、黒をゆるやかに緋色に染めだす。
それが合図かのように、彼女の足下、壁、天井につぎつぎに小さな火が灯りはじめる。
「え――」