第39章 錯綜と進む針と
気がつくと、アルフレッドの目の前に見慣れたテーブルがあった。
研究所内の小さなカフェテリアに、彼は立っていた。
照明もなく、深夜の暗闇に包まれたカフェテリアは、ひたすらに静けさを保っている。
ここは爆発を逃れたらしい。
マシューと利用していた記憶のままの風景を、アルフレッドに見せていた。
「……」
テーブルに手をつく。
冷たく硬い感触が、音もなく伝わってくる。
今朝もここで遅い朝食をマシューととったが、もうそれは遠い昔のように思えた。
と、視界の端でなにかが動く。
窓の方角だ。
少し離れた廊下で、ちょうど人影が角を曲がり、姿が見えなくなった。
その後ろ姿は、アルフレッドが見たことのある少女のものだった。
「っ!?」
瞬時に足が床を蹴って、勝手に駆けだす。
心臓の鼓動が跳ね上がっていた。
疲労と眠気が一気に吹っ飛ぶ。
はやる気持ちに足がもつれそうになるが、彼女が曲がった角を勢いよく曲がり、減速して歩みをとめた。
月明かりに淡く照らされた廊下を、ゆっくりと、彼女は歩いていた。
「公子!」
呼ばれた彼女の足が、静かにとまる。
勢いで名前を呼んだが、とっさに続く言葉が出なかった。
――なんだろう、この違和感は
脳髄のはしで、なにかが警鐘を鳴らしていた。
――そもそも俺はいつカフェテリアに来たっけ?
優雅ですらある所作で、彼女が振り返る。
薄い月明かりのもと彼女の髪が翻り、待ち焦がれていたはずの瞳が、アルフレッドに向けられた。
「よかった来てくれたん……――え?」