第1章 突然な出会い
(隣の子も、泣いてる…)
暗い体育館の中じゃよく見えないけど、目を潤ませてる子は他にもいると思う。
彼の歌声は、誰かの記憶にそっと触れるような不思議な力があるんだ。
(…実際の高橋陸は、ただのチャラ男なのに)
今日は新歓だからMCも抑え気味だっただけで、いつもはもっとはっちゃけてるし。
ギャル男とまではいかなくても、充分ノリが軽かった。
女の子たちが面と向かって王子なんて呼ぶのも、本人が笑って受入れてるだけだ。
そんなことを考えてるとステージ上の彼と目が合った気がした。
びっくりして、息がつまる。
金縛りにあったみたいに動けずにいると、ふっと向こうが目を閉じた。
ーーーーーその後のことは覚えていない。
キーボードが最後の一音を鳴らし、少し遅れて拍手と歓声があがった。