第3章 かうんと・わん
『 ななし』
名前を呼ばれた。
大好きで、愛しいその人の声で。
ふと気付けば、そこに彼はいた。
その姿はノイズが走ったように見えづらく、不鮮明。
のばされた腕。閉じ込められる身体。
慈しむように、愛おしむように。
抱き締められた、それなのに。
その感触も、あたたかな温度も。
何一つ、その抱擁には、なかった。
ああ、これは夢だ。
と、理解した。
夢で彼に会えるだなんて、嬉しい。
けれど、同じくらい悲しくなる、夢だった。
夢じゃなくて現実で。
私の名前を呼んで。
頭を撫でて。
抱き締めて。
そのあたたかさを今すぐに教えて欲しい。
そう思うことがただの我が儘で。
今すぐだなんて叶えられるはずがないことが分かっているから。
余計に悲しくなった。
『 ななし……』
感触も温度もない彼。
それでも、今の私の側にいてくれる夢の彼。
そんな彼に縋って夢の世界に縋って。
私はその胸にすりよった。
満たされることのない胸のうちが、どうしてなのかは分かっている。
夢だけじゃ足りないのだと気付いている。
けれど私にはどうしようもなくて。
だからただただ泣いていた。
普段なら言わないこと。
普段なら、言えない、こと。
――寂しいよ、音也。