第1章 かうんと・すりー
「本当にごめん!今年はイブもクリスマスも仕事があって一緒にいられそうにないんだ」
恋人になったばっかりの音也にそう伝えられたのは、秋も深まり落葉樹が思うまま色とりどりに変化した頃だった。
肌を刺す冷気さえまだまだ先のことだというのになんともまあ気の早いことですでに仕事が決定したらしい。
なんでもイブはクリスマス特別ライブがあり、当日には特番の生放送の音楽番組があるんだとか。
もとより、音也と恋人になれた頃からクリスマスはこうなってしまうだろうなとは考えていた。
なんてったってアイドル。イベント時期に何もないはずがない。あっちやこっちやと引っ張りだこなのは想定内だ。
クリスマスだけじゃない。これから先のイベント事、正月やバレンタイン、その他諸々も仕事だなんだで一緒に過ごすのはきっと難しいだろう。
成り立ての初々しさも残る彼氏彼女という甘酸っぱい立場からしてみれば少し寂しい気持ちがあるのは確かだけど、まあそれは仕方がない。
それよりも、それこそ学園時代から音也をずっと応援していた一ファンとして音也にアイドルとしての仕事が目一杯転がりこんでいるのを見るのは素直に嬉しくもある。
だから私は聞き分けの良い子どもよろしく、素直に頷いて。
どうってことないと、本音を隠した笑顔を作った。
「別に気にしなくていいよ、音也。仕事頑張ってね」
「……うん。ありがとう。26日は1日お休みもらったから、その日は一緒に過ごそう」
1日ずれちゃうけどクリスマスパーティーだ、とそう約束しぎゅっと握られた手。
浮かべられた笑顔はその日を想ってかゆるりと柔らかで日溜まりのようにあたたかかった。
けれど。
その瞳は微かな陰りに揺らいでいて。
――クリスマスを一緒に過ごせないことを、音也も残念に思ってくれているのだろうか。
もしそうだったなら、少しは嬉しいのだけど。
本当は寂しい。とっても寂しい。音也とクリスマスを過ごせないことが。
けれどそれを素直に伝えても音也を困らせるだけだということは分かっている。
一緒にいたい。それは私の我が儘だ。
それに、次の日に思う存分、音也が狼狽えるぐらい甘えてやればいいのだ。だから、大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、繋がれた手をぎゅっと強く握り返した。