第5章 珈琲*スモーカー
スモーカーと私では年が離れすぎている。
それに、たしぎちゃんとお似合いだし、ヒナ嬢とだって同期の上にすごくお似合いだ。
私なんかが恋い焦がれていい相手ではないのに、この男はこうやって私の心臓を鷲掴みにするような痛みを与えてくれる。
うーんと悩んだ後、ま、いいか!と机の上に置いてあっ読みかけの本を開く。時折スモーカーの顔をみながら、本を読み進めて行った。
昼休み終わり開始十分前。
「おーい、スモーカー、おきろー」
「…」
「おーい、スモーカー、おきろー」
「…ん」
「十分前だ。五分だとなにかとあわただしくなるだろ?ほら、コーヒー淹れてやるから起きて」
スモーカーの体を起こさせ、コーヒーを淹れに行こうと思ったら、突然腕を引っ張られ、スモーカーの脚の間に座り込んでしまった。
「なにやって…」
「コーヒーはまた夜もらいにくる」
「いやそういうことじゃなく」
「栄養補給だ」
「はぁ?」
後ろから抱きしめられている状況に私の利益は無いじゃないかと考えつく。こんなに心臓が苦しいんだ。少しくらい得してもいいだろう。
「なんだ」
「ほら、ちゃんと背もたれに寄りかかって!」
スモーカーをしっかり座らせ、向き合う形でスモーカーの上にのる。
コアラのように。
「これ落ち着く」
「…お前…狙ってんのか」
「スモーカーのコアラポジションは渡さない」
「…そういうことじゃ無くてな」
「…なんか眠くなって…き…」
「…あ?おい、」
「ん〜…」
「…五分だけな」
私はそのまま眠りに落ちた。スモーカーの腕が背中に回されるのを感じながら。
五分後、起こされおはよ、と言うと、なんかスモーカーの顔が赤い。
「熱か?」
「バカ、お前だ」
「はぁ?」
よくわからないことを言っているスモーカー。
「お前のその無防備な顔は…おれだけのモンだ」
「だから何いって」
後頭部を大きな掌で支えられ、もう片方の手が頰に添えられ、スモーカーとの距離はゼロになる。
「好きだ」
私は一言の言葉なんかで人間なく奴なんていないと思っていたのに、自分がそれに該当してしまっていた。
目から零れ落ちるのは紛れもなく私の涙で、潤んだ目は困ったように笑うスモーカーを映している。